大規模疫学的調査から見えた象牙質知覚過敏の現状
象牙質知覚過敏のScience&Art-欧州7か国大規模疫学的調査の見解-
象牙質知覚過敏症は世界の成人人口の大部分が罹患しており、人々の生活の質に悪影響を及ぼしているといわれています。
2023年にコロンビアの首都ボゴタで開催された国際歯科研究学会(IADR)で発表された象牙質知覚過敏症の欧州7か国大規模疫学的調査は、2018年から2022年にかけてヨーロッパ各国で行われ、データは性別と年齢層に分けて収集されました。象牙質知覚過敏症を自己申告した参加者の回答例を見ると、多くが2年以上症状で苦しんでいると回答し、さらに50%以上が知覚過敏は日常生活において重要な問題であると回答していました。
象牙質知覚過敏症に関する観察的かつ横断的な多施設疫学研究は少なく、本調査結果は象牙質知覚過敏症の予防や治療において有用となる可能性があります。
監修:日本大学歯学部 保存学教室修復学講座教授 宮崎 真至 先生
※本記事は2024年2月28日に開催されたシュミテクトウェブ講演会の内容をもとに作成しております。
欧州7か国大規模疫学的調査の概要
本調査は、欧州7か国における18歳以上の成人(3,551人)の象牙質知覚過敏症の有病率と症状に関連する危険因子を明らかにすることを目的に実施されました(表1)。本調査は観察的かつ横断的に多施設で行われたため、年齢などの背景因子の偏りが少ないと考えられ、冷刺激に対する反応の有無、Schiffのスコア(Schiff冷気感度スケールを用 *いた評価)および参加者の自己申告による調査結果が評価されました。
*:0~3の4段階でエア刺激に対する反応を評価
臨床データ結果
冷刺激に対する反応については、参加者の半数以上が知覚過敏症状を感じていました。38~47歳の年齢層が多く、知覚過敏症状を感じた部位は頬側が一般的でした(図1、2)。一方で、舌側および口蓋側で痛みを感じる参加者も認められました(図1)。舌側および口蓋側における象牙質知覚過敏症の有病率に関して、このような大規模な研究および報告が行われたのは本調査が初めてです。
臨床データ結果
冷刺激に対する反応の有無、Schiffのスコアおよび自己申告の結果を比較したところ、相関性が認められました(図3)。象牙質知覚過敏症は全ての国および全ての年齢層で蔓延しており、罹患年齢は過去のデータと比較して20年早くなっています¹。知覚過敏症状を自己申告した参加者は38~47歳のグループで最も多い傾向を示しました(図3)。ストレスや生活習慣の乱れなどによって象牙質知覚過敏症のリスクが増加している可能性が考えられます。象牙質知覚過敏症の発症には患者さんの社会的な背景が関係していることが示唆されるため、問診をして原因を究明することが大切です。
主なリスク因子との関連性
象牙質知覚過敏症の大規模疫学的調査における参加者の自己申告調査結果から主なリスク因子との関連性を調べたところ、次のことがわかりました。象牙質知覚過敏症のリスクは、男性および学生で低下が認められました(表2)。また、睡眠薬や抗うつ薬、ストレス、胸焼け、嘔吐、飲食物の摂取頻度が象牙質知覚過敏症のリスクと関連することが示されました(表2)。以上の調査結果から、欧州7か国における象牙質知覚過敏症の現状が明らかになりました。続いて、象牙質知覚過敏症の基本的なメカニズムと対応について紹介します。
象牙質知覚過敏症のメカニズムと対応
象牙質知覚過敏症のメカニズムとして、外来刺激(機械、化学、温度刺激)が歯髄神経を興奮させる「動水力学説」が広く受け入れられていますが、歯髄内知覚神経の過敏化の機序「odontoblast receptor hydrodynamic theory」についても解明されつつあります。知覚過敏の抑制に向けた臨床的なアプローチとしては、鈍麻と封鎖がメインとなります。また、セルフケアではフッ化物や硝酸カリウム、乳酸アルミニウムを含有する歯磨剤を使用したブラッシングが重要となります。硝酸カリウム、乳酸アルミニウム、および高濃度のフッ化物(1450ppm)が配合された薬用シュミテクトを使用することによって、歯髄神経の鈍麻、口腔内の耐酸性の向上や再石灰化の促進、歯肉退縮によって露出した象牙細管の封鎖につながります。
監修: 日本大学歯学部 保存学教室修復学講座 教授 宮崎 真至 先生
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