「歯周病予防の歯磨剤とホームケアの重要性」
近年、歯周病と全身疾患の関連が明らかになり、歯と口腔の健康が全身の健康の保持・増進に重要であることが認知されています。
監修:医療法人社団真健会 若林歯科医院 院長 若林 健史 先生
記事のポイント
- 骨太の方針で国民皆歯科健診の導入が示された
- 歯周病の患者数は増加、全身疾患との関連が指摘されている
- 歯周病治療はセルフケアが重要
- ターゲット(目的)に合わせて歯磨剤の成分・製剤を選択
- ホームケアとプロフェッショナルケアの両輪が大切
※本記事は2023年4月27日に開催されたカムテクトウェブ講演会の内容をもとに作成しています。
骨太の方針で示された国民皆歯科健診の導入
2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる「骨太の方針」)では、「国民皆歯科健診」の導入を検討する方針が示されました。国民が高齢になっても、多くの歯を残し健康寿命を延ばすことで医療費の抑制を目指すことを目的とした施策であり、多くの関心を集めています。
歯周疾患有無と医療費の関連
歯周疾患の予防が医療費の削減につながることを示した、ある国内最大手企業の健康保険組合による調査によりますと、被保険者の年間医療費を分析した結果、歯周疾患のある人は歯科以外の疾患に使われた医療費(医科医療費)が、歯周疾患のない人よりも平均1万5,800円多いという結果が得られました。このうち、多くの人が糖尿病の治療を受けていたことも分かりました。60歳以上に限定すると、この差は3万円前後まで広がっています。
歯周病の患者数増加と全身疾患との関連
国が実施している歯科疾患実態調査では、4mm以上の歯周ポケット保有者の割合が増加傾向にあり、45歳以上では過半数を占めていました1)。全国の歯科医院における抜歯処置の主な原因を調査した結果、主原因の1位が歯周病(37.1%)であったという報告2)もあります。
近年では糖尿病や心筋梗塞など、歯周病とさまざまな全身疾患との関係が指摘されています。歯周病の罹患者を減らすことは多くの全身疾患の減少につながり、国民の健康に大きく寄与すると考えられます。
- 「平成28年歯科疾患実態調査」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html)
- 「第2回永久歯の抜歯原因調査 報告書(2018)」(公益財団法人8020推進財団)
歯周病治療におけるセルフケアの重要性
歯周病は初期の段階では自覚症状に乏しく、知らないうちに進行してしまうため、院内でのメインテナンスだけでなく、患者さん自身による日々の予防やセルフチェックが重要な疾患です。
歯磨剤の処方は、歯周病のセルフケアの成果を高めるための予防的アプローチであるといえるでしょう。
歯磨剤を選択するための3大要素
歯周病予防・対策として歯磨剤に期待する効果は、機械的プラークコントロールの補完、バイオフィルム表層・内部細菌の殺菌など多岐にわたり、多くの製品が発売されています。一方でプラークコントロール指導では、発泡剤や香料が配合されている歯磨剤の使用は推奨されない場合もあり、患者さん自身で適切な歯磨剤を選ぶことは簡単ではありません。
歯科医師・歯科衛生士が、十分な知識に基づき、患者さんの口腔内の情報や技量なども考慮して最適な歯磨剤を選択することは、患者さん自身が適切にセルフケアできる環境を整えることにつながります。
この歯磨剤の選択においては、①歯磨剤の選択、②器具の選択、③用法・用量の選択など、大きく3つの要素が重要となります。
歯磨剤選択のプロセス
はじめに、ターゲット(目的)を決定します。患者さんの状態から「何に対してどうしたいか」を明確にします。次に、成分・製剤を選択します。ターゲット(目的)に対して必要な成分を考え、求められる清掃力も加味しながら製剤を選択します。
最後に、製剤を効果的に作用させるために、ブラシ類などのアイテム、ツールを選択します。
歯磨剤の成分
前述のとおり、歯磨剤の配合成分は多様化しており、効果もさまざまです。歯科医師や歯科衛生士は、作用や効能だけでなく配合成分についても深く理解する必要があります。
代表的な歯磨剤の配合成分を示します
ターゲット(目的)に対する成分・製剤の選択
続いて、ターゲット別の成分・製剤選択について、具体的な事例をご紹介します。
① 排膿や口臭が強い患者さんにはIPMP、LSS配合洗口剤や歯磨剤 歯周炎が慢性化すると、バイオフィルムも成熟しており排膿や口臭が発生するため、IPMPとLSS配合洗口剤を検討します。歯磨剤が併用できる場合にはあわせて検討します。IPMPはバイオフィルムに対する抗菌剤の中できわめて高い浸透殺菌活性を示しており、バイオフィルムの殺菌効果が必要な場合には有効成分となります。
② 深いポケットが存在する患者さんにはCPCとIPMPの組み合わせ 歯周外科処置が行えず、深いポケットを残した状態でSPTに入る場合は、浮遊性菌とバイオフィルムそれぞれに有効な成分を組み合わせます。さらに、抗炎症剤と組織修復作用のあるビタミン類も配合された製品であれば、より高い効果が期待できます。これらを1本の歯磨剤として処方するか、洗口剤との併用とするかは、患者さんの状態に合わせて選択します。
③ 歯肉を引き締めたい患者さんには抗炎症剤と収斂剤 SPT期のケアには、血行促進作用があり歯周組織に栄養を届けてくれるビタミンE配合歯磨剤を検討します。歯肉線維芽細胞の増殖促進効果や歯周病菌の侵入を抑制する効果が認められており、上皮細胞を守ると同時に、組織の修復を促す作用が期待できます。
ホームケアとプロフェッショナルケアの両輪が大切
歯周病患者に対して行う歯周基本治療の中で最重要と考えられているのが口腔清掃指導です。歯ブラシで歯垢を除去することは歯肉の炎症を改善し長期的に歯肉の健康を維持する役目を担っています。適切な歯磨剤の選択はセルフケアの効果を高めるだけでなく、歯周治療やメインテナンス効果の向上に寄与します。
歯周病は日本人の多くが罹患し、今後の高齢化社会の中での様々な全身疾患のリスクにもつながる疾患です。最適なセルフケアによって歯周病治療やメインテナンス効果が向上し、少しでも歯周病に苦しむ患者さんを救う一助になれば幸いです。ホームケアとプロフェッショナルケアの両輪で促進をぜひ診療室で実践していただきたいと思います。
監修:医療法人社団真健会 若林歯科医院 院長 若林 健史 先生
歯科医師・歯学博士。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、若林歯科医院 開院。2016年、オーラルケアクリニック青山 開院。日本歯周病学会認定の専門医・指導医、アンチエイジング歯科学会認定医。歯周病治療の第一人者であり、学会理事や大学客員教授も務め、歯科医療に対する一層の信頼の確保と、学術的な前進にも貢献。
歯周病予防とカムテクトに関する詳しい情報はこちらでご紹介しています。